フィオナ・アップルがそれが紙袋であると気がついた、その時、I氏は本屋へ向かっていた。
高架になっている幹線道路の脇の高架になっていない歩道を歩いていると、スプレィで落書きがしてあるのである、高架の柱に。
ここでは仮にこの落書きをしたものを某落書き氏としておく。
某落書き氏はそこに2.5mほどの柵があろうが、瓦礫が敷き詰められた急な坂であろうとお構いなしである。
若さのなせる技である。
「何故そこに描くのかって?そこに柵があるから」と吐かしたのかは知れないが、それを飛び越えたのであろう。
努力の方向が間違っている気がしないでもないが、してやったりと闖入せしめたのである。just a paper bag。
この高さを攻略するにはスプレィ缶を手に持っていたのでは邪魔であるので、缶をまず先に柵の向こうへ放り投げる。
いや、柵の向こうは瓦礫なのであって少し躊躇したかもしれぬ。
さらに缶にはこう書いてある。
「缶が破裂する恐れがありますので、2.5m以上の高さから瓦礫の上に落とさないでください」
やや、これは困った。投げ入れることはできぬ。
そこで、スプレィ缶を持った男はしばし案じ、携帯電話で友人を呼び出すのである。
「やぁ、こんばんは、元気そうだね安心したよ、スプレィ缶を投げてはくれないか?」
「は?」
「あ、今さ、俺さ、外に居るのよ、それでさ、スプレィ缶を投げてほしいなと思って」
「え?スプレー缶をなんで投げる必要があるの?それにいま何時だよ3時かよ、寝みぃよ。それに寒みぃよ、じゃあまたな」と吐かす。
ツー。
某落書き氏は説得に失敗し、うなだれた。つれない友人である。
某落書き氏は高架の上の街灯が照らす薄明かりの下、辺りを見回した。
民家、ローカル情報誌の事務所、静寂、かすかな光、スポークの曲がった自転車、枯葉、グローブをした男の看板、
駐車場、軽自動車、アスファルト、何かの境界を示すコンクリートブロック、草むら、街路樹。
某落書き氏は草むらから長めの草をぶっこ抜くと、それをより合わせ縄を作り始めた。
縄を製作することで、スプレィ缶のキャップを取って吹き出し口の部分に縄をくくりつけ向こう側に渡せば安全にスプレィ缶を移動させることができる。
某落書き氏は全能感というか、そのひらめきに冷や汗のようなものをかいた。
縄の編み方は小学生のときに社会学習みたいな文化交流的ななんだっけ?まぁいいや、そういった感じのイベントで
近所の農家のおばあちゃんからレクチャーを受けた。そのときはクラスで3番目ぐらいにきれいにできた、縄が。
地べたに座りながら縄を編んでいたのであるが、できた縄は強度を確認するたびにぶちりぶちりと千切れ使い物にならぬ。
これでは、クラスでも下から数えたほうが早そうな出来栄えであり、納得がいかず、むしろ編み方など忘れており、
それでもなお編み上げんとし、寒さで手は震え、かじかみ、奥歯も噛み、そうして朝になった。
今日はゲンが良くないので止めにしとこう。
某落書き氏は柵を越えることをあきらめ、そのやるせなさを四柱推命とか六曜とか陰陽五行のせいにすることにした。
って、これじゃあ落書きが存在していることに疑問が生じる。雑草は生えているのに・・・。まぁいいや。just a paper bag。
壁に対する落書きはたいていは解読不能なよくわからないサインのようなものだが、どこまでも点々と書き連ねられている。
たまに読めるメッセージもある。「チョリス」とある。
あー、違う、それは違う、辛いソーセージではない、念のため申し添えておく。
徒歩で1時間ほどかけて本屋につくと、作者が「ま」の辺りの棚にI氏は陣取った。なんとなれば、他の本屋で立ち読みした
小説の続きを読むためである。なんとなれば、あまりに本屋に入り浸っていつも「ま」のあたりの棚に陣取っていると
不審であるから、というか、なんとなく申し訳ない気持ちになるのであって、たまには買えばいいのであろうが、何故かお金が無い
のであるので、ジレンマ。
それとはまったく関係なく、今日はいつもより調子が良いので散歩でもしてみようと思い立ち、ラーメンを食べ、往路では素通りした本屋に帰り道に立ち寄っただけなのである。
して、はたと、読みかけだったなぁと陣取ることに相成った。
道端の枯葉が「豆屋にござい」と練習しているかのようであった。そのときはそう思えた。
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言葉の破裂。感情の濁流。爆裂する道祖神。
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未定。無形。不安定。