「トン、トン、トン・・・」軽快な音が厨房に響く。
寸胴がごうごうと湯気を立て始める。
イトウはネギを刻みながら、柱の時計に目をやった。
「9時か・・・」
イトウがラーメン屋を開いてからもう12年になる。
イトウは25歳まで商社マンとして世界中を飛び回っていた。
世界には様々なスパイスがあった。
イトウはまだ見ぬスパイスを求め、時にはスーツにゴム長で
密林の奥へと泥だらけになりながら果敢に歩を進めたこともあった。
まるで自分は大航海時代の冒険家にでもなったような気がしていた、
優に地球を100周はしていただろう。
いや100周は言い過ぎたかもしれない30周はしただろう。
イトウは世界を覗き過ぎた気がした。
紛争も地雷原もカラシニコフを見飽きた、実際はそんなもの見ていない。
見ていないが、見たことにして、会社を辞めた。
そして、ラーメン屋を始めた。イトウは自分でも安易だと思った。
飲食店は開業しやすいが、うまくいく確率も少ない。
当然といえば当然だが最初はなにもかもうまくいってなかった。
潰れた居酒屋を居抜きで借りたのはいいが、
案の定、客は寄り付かなかった。
店は商店街の裏の通りにあり、人通りがないというわけでもないが、
人でごったがえしているわけでもない。
そこでイトウはとにかくスープにこだわった。
極上のダシを求めて、日夜様々な材料を煮ては捨てる日々が続いた。
鶏がら、ゲンコツ、牛骨、昆布、カツヲ節、サバ節、ソーダ節、ハモの骨、
ネギ、たまねぎ、セロリ、パイナップル、カボス、インスタントコーヒー
チョコレート、フリスク・・・
日が経つにつれ味は迷走していった。
2ヵ月後イトウはフリスクは入れてはいけないことだけ学ぶことができた。
レジの横にはガムを置くことにした。
やがて、夏が来て「冷やし中華はじめました。」の貼り紙をした。
ちなみに冷やし中華はインスタントのものを出していたが、なかなかどうして
これが売れていた。商売ってやつはこれだから分からない。
客は何を求めているのか?イトウは悩んだ。
寸胴を支えているコンクリートブロックを何度蹴ったか分からない。
傷ついたのは長靴のほうだが・・・。硬てぇよコンクリート。
イトウはそのころになってスープの開発から脱却し、スパイスの開発に
乗り出した。料理は舌で味わうのはもちろんだが香りも重要な要素を
担っている。ってコンビニで立ち読みした漫画に書いてあったからだ。
そして、イトウはカシューナッツに辿り着いたのだ。香りの強い、いわゆる
スパイスの中にあってカシューナッツは抜群に良かった。
そもそもスパイスといって良いのか分からないけれども・・・。
カシューナッツはスープにコクと膨らみとなんとも言われぬ香りを与えた。
そして仕上げにはカボスを絞った。これでコク、香り、そしてさっぱりとした後味
これで3拍子揃った。もちろんフリスクは入れていない。
ナッツを入れてから、イトウの店にも客がつき始め、出前をすることも多くなった。
イトウは1人で店を切り盛りしていたが、出前で店を空けることが多くなった。
そうしていると、食い逃げが増え始めた。
せっかく店が軌道に乗り始めたのに、なんということだ。
そこでイトウはバイトを雇うことにした。バイトの名前はヒサトシと言った。
イトウはなんていいづらい名前かと最初は思ったが、慣れるとそうでもない。
人間の学習能力はなんてすばらしいんだ、とイトウはなんだか分からないけど
感謝した。何かに。
雇用関係があるとはいえ、仲間ができるのはうれしかった。
イトウはその気持ちが昂ぶり、そして勢いあまって何かに感謝したくなったのかもしれないと思った。
ヒサトシは22歳で前は居酒屋でバイトしていたと言っていた。
普段は無口なヤツだが、歌がうまい。
店が休みの日に一緒にカラオケに行ったのだが、歌のうまさも去ることながら、
マイクの持ち方が堂に入っている。GLAYとか超うまい。
あ、そうそう仲間といえばもう一人いる。ダイスケだ。この店の常連である。
ダイスケはこの近所に住んでいるらしく、サオダケ屋をしているといっていた。
そんなもの儲かるのだろうか?
ダイスケは必ずカウンターの端っこに陣取ってスポーツ新聞をさも日経でも
読んでいるかのように難しい顔して読みながらメンマをツマミにビールを飲む。
ダイスケはラーメンは決まって味噌を頼む、濃い味が好きらしい。
ダイスケは酔うとしきりに「キョウコ、キョウコ」とつぶやき始める、
誰の名前だろうか?分からない。
あまりにも悲壮な表情でつぶやくのでやぶ蛇にならぬように、イトウはそれについて触れないことにしている。
沈黙は金だとか、触らぬ神に祟りなしとかそういった感じである。
てなことを考えている間に、9時45分になっていた。開店は10時からである。
イトウは暖簾を入り口に掛け、店の前を掃き始めた---。
ヒサトシ(君)は狭い路地を軽やかに原付で走り抜けた。
ゴテゴテした「伊東軒」の看板が目に入った。
おっと、ここだった。なんて安易な名前だろうか、とヒサトシは思った。
ヒサトシは入り口の前を掃いているイトウに軽く会釈して、かるーく挨拶すると
暖簾をくぐりカウンターの奥で着替え始めた。
この店にはカウンターの客からは見えない棚にに「秘伝の粉」と書かれた
大きな缶がある。
マジックで「秘伝の粉」と殴り書きしてある、安っぽいなとヒサトシは思った。
それだけではない。ヒサトシはこれにイトウがいわゆる化学調味料を
入れているのを見た。
何が秘伝の粉か!ばっかじゃねぇの!?
イトウは言う、
「ラーメンはスープじゃねぇ、スパイスだ。スパイスの爆発だ」
「味は化学だ、ケミストリーだ、俺は味のアルケミストだ」
ヒサトシはイトウのいっていることは良く分からなかったが、
店はそこそこ流行っていたので、気にしないことにした。
それに店はイトウが考えているより流行っている。
ヒサトシはイトウが出前の配達に行っている間にレジの金をくすねているからだ。
「バイトを雇うなら出前をやらせろ」である。
笑いの始まりコッカラだ。
寸胴がごうごうと湯気を立て始める。
イトウはネギを刻みながら、柱の時計に目をやった。
「9時か・・・」
イトウがラーメン屋を開いてからもう12年になる。
イトウは25歳まで商社マンとして世界中を飛び回っていた。
世界には様々なスパイスがあった。
イトウはまだ見ぬスパイスを求め、時にはスーツにゴム長で
密林の奥へと泥だらけになりながら果敢に歩を進めたこともあった。
まるで自分は大航海時代の冒険家にでもなったような気がしていた、
優に地球を100周はしていただろう。
いや100周は言い過ぎたかもしれない30周はしただろう。
イトウは世界を覗き過ぎた気がした。
紛争も地雷原もカラシニコフを見飽きた、実際はそんなもの見ていない。
見ていないが、見たことにして、会社を辞めた。
そして、ラーメン屋を始めた。イトウは自分でも安易だと思った。
飲食店は開業しやすいが、うまくいく確率も少ない。
当然といえば当然だが最初はなにもかもうまくいってなかった。
潰れた居酒屋を居抜きで借りたのはいいが、
案の定、客は寄り付かなかった。
店は商店街の裏の通りにあり、人通りがないというわけでもないが、
人でごったがえしているわけでもない。
そこでイトウはとにかくスープにこだわった。
極上のダシを求めて、日夜様々な材料を煮ては捨てる日々が続いた。
鶏がら、ゲンコツ、牛骨、昆布、カツヲ節、サバ節、ソーダ節、ハモの骨、
ネギ、たまねぎ、セロリ、パイナップル、カボス、インスタントコーヒー
チョコレート、フリスク・・・
日が経つにつれ味は迷走していった。
2ヵ月後イトウはフリスクは入れてはいけないことだけ学ぶことができた。
レジの横にはガムを置くことにした。
やがて、夏が来て「冷やし中華はじめました。」の貼り紙をした。
ちなみに冷やし中華はインスタントのものを出していたが、なかなかどうして
これが売れていた。商売ってやつはこれだから分からない。
客は何を求めているのか?イトウは悩んだ。
寸胴を支えているコンクリートブロックを何度蹴ったか分からない。
傷ついたのは長靴のほうだが・・・。硬てぇよコンクリート。
イトウはそのころになってスープの開発から脱却し、スパイスの開発に
乗り出した。料理は舌で味わうのはもちろんだが香りも重要な要素を
担っている。ってコンビニで立ち読みした漫画に書いてあったからだ。
そして、イトウはカシューナッツに辿り着いたのだ。香りの強い、いわゆる
スパイスの中にあってカシューナッツは抜群に良かった。
そもそもスパイスといって良いのか分からないけれども・・・。
カシューナッツはスープにコクと膨らみとなんとも言われぬ香りを与えた。
そして仕上げにはカボスを絞った。これでコク、香り、そしてさっぱりとした後味
これで3拍子揃った。もちろんフリスクは入れていない。
ナッツを入れてから、イトウの店にも客がつき始め、出前をすることも多くなった。
イトウは1人で店を切り盛りしていたが、出前で店を空けることが多くなった。
そうしていると、食い逃げが増え始めた。
せっかく店が軌道に乗り始めたのに、なんということだ。
そこでイトウはバイトを雇うことにした。バイトの名前はヒサトシと言った。
イトウはなんていいづらい名前かと最初は思ったが、慣れるとそうでもない。
人間の学習能力はなんてすばらしいんだ、とイトウはなんだか分からないけど
感謝した。何かに。
雇用関係があるとはいえ、仲間ができるのはうれしかった。
イトウはその気持ちが昂ぶり、そして勢いあまって何かに感謝したくなったのかもしれないと思った。
ヒサトシは22歳で前は居酒屋でバイトしていたと言っていた。
普段は無口なヤツだが、歌がうまい。
店が休みの日に一緒にカラオケに行ったのだが、歌のうまさも去ることながら、
マイクの持ち方が堂に入っている。GLAYとか超うまい。
あ、そうそう仲間といえばもう一人いる。ダイスケだ。この店の常連である。
ダイスケはこの近所に住んでいるらしく、サオダケ屋をしているといっていた。
そんなもの儲かるのだろうか?
ダイスケは必ずカウンターの端っこに陣取ってスポーツ新聞をさも日経でも
読んでいるかのように難しい顔して読みながらメンマをツマミにビールを飲む。
ダイスケはラーメンは決まって味噌を頼む、濃い味が好きらしい。
ダイスケは酔うとしきりに「キョウコ、キョウコ」とつぶやき始める、
誰の名前だろうか?分からない。
あまりにも悲壮な表情でつぶやくのでやぶ蛇にならぬように、イトウはそれについて触れないことにしている。
沈黙は金だとか、触らぬ神に祟りなしとかそういった感じである。
てなことを考えている間に、9時45分になっていた。開店は10時からである。
イトウは暖簾を入り口に掛け、店の前を掃き始めた---。
ヒサトシ(君)は狭い路地を軽やかに原付で走り抜けた。
ゴテゴテした「伊東軒」の看板が目に入った。
おっと、ここだった。なんて安易な名前だろうか、とヒサトシは思った。
ヒサトシは入り口の前を掃いているイトウに軽く会釈して、かるーく挨拶すると
暖簾をくぐりカウンターの奥で着替え始めた。
この店にはカウンターの客からは見えない棚にに「秘伝の粉」と書かれた
大きな缶がある。
マジックで「秘伝の粉」と殴り書きしてある、安っぽいなとヒサトシは思った。
それだけではない。ヒサトシはこれにイトウがいわゆる化学調味料を
入れているのを見た。
何が秘伝の粉か!ばっかじゃねぇの!?
イトウは言う、
「ラーメンはスープじゃねぇ、スパイスだ。スパイスの爆発だ」
「味は化学だ、ケミストリーだ、俺は味のアルケミストだ」
ヒサトシはイトウのいっていることは良く分からなかったが、
店はそこそこ流行っていたので、気にしないことにした。
それに店はイトウが考えているより流行っている。
ヒサトシはイトウが出前の配達に行っている間にレジの金をくすねているからだ。
「バイトを雇うなら出前をやらせろ」である。
笑いの始まりコッカラだ。
SECRET: 0
返信削除PASS:
ヒサトゥ氏が付き合っていたほら、あの人、クラスメイトだったよ。
だれだっけ?
あれ。ほら。
えっと。
いのうえさん?
いのうえ?
かずこ?
駄目だ。なにも思い出せない。
覚えているのはヒサトゥ氏が私の父と同じ詐欺にあったと父が言っていたことです。
でもウチの父は(本人にその自覚はないけど)事実と反することをよくおっしゃるので何も何一つ何もかも信用できません。
それでも笑いの始まりコッカラだ。
はー東西ナ東西ナ。コッカラ舞コッカラ舞。
SECRET: 0
返信削除PASS:
http://www.sakigake.jp/p/special/08/kenbunki/kenbunki_47.jsp
魁新報に出てるニダ。
SECRET: 0
返信削除PASS:
確か、
メリッサだか
メデューサだか
アネッサだか
アリスだか
そんな感じだろう。
SECRET: 0
返信削除PASS:
師匠、何を眺めてらっしゃるの?
蟻さ。
蟻?
左様。蟻よ。井戸の上に蟻がいるだろう。蟻を眺めていると飽きないのじゃよ。
ほう。井の上の蟻ですか。
左様。井の上の蟻さ。
井上蟻さ。
蟻さ。
蟻かー。
そんな話を思いつき、そして代わりに僕はまた一つ大切な何かを忘れてしまいました。
すんごく大切な何かを。
思い出せてまてん。