さおだけ屋はなぜ潰れないのか?(山田真哉)

2009/11/10

観てみた読んでみた



「たぇけやぁあぁぁ さおだけぇぇ」
閑静な住宅街に拡声器の音が響いた。

ダイスケは軽トラックの重いステアリングにうなだれながら、
青い空や公園のブランコなんかを横目にアクセルを踏み込んだ。

―それは3週間前、ダイスケは駅前にある深緑色のベンチに座っていた。
もう立冬だというのに、Tシャツとボロボロのジーンズは少しも似合ってないし、
誰が見ても寒そうだ。だが、ダイスケにとってそれはどうでもよかった。
どうして駅前にいるのか分からなかったし、何処に居たとしても自分のいるべき
場所では無い気がした。自分の存在が希薄になり、感覚はラップで包まれたように
あやふやだ。
金属部品をプレスする叫び声のような轟音の機械は懐かしいが、
解雇されたのでもう会うことも無い。
キョウコはクリーニング屋にコートを取りに行ったが帰ってこない、
荷物もなくなっていたのでもう戻ってこないだろう。
キョウコ、君はきっと正しい。
ひとしきり、思いを巡らしていると、鳩が街路樹の根元の何かを食べ始めた。
気がつくと、となりにストライプのスーツを着た男が座っていた。
「サオダケ屋をやってみないか?」男はそう言った―。

ダイスケは住宅街を抜け、国道を右に曲がると田園地帯の広がる小さな道を抜け
山中へと向かった。
サオダケを売るのはこれで5度目だ。もう道に迷うこともない。
サオダケは金属製でとても重い、30kgはありそうだ、なんでも特注品らしいが。
今日は港でサオダケを載せた。売る先はいつも山奥にある元材木工場のようなところだ。
載せる場所は毎回違う、その都度電話で指示があるが、
町工場のようなところであったり、大きな倉庫であったり、中華料理屋の裏から
渡されたりする。

元材木工場らしき場所につくと、季節に似つかわしくないアロハシャツを着た男
が出てきた、名前はマサルと言った。
マサルは片言の日本語でここでは味噌を作っているといったことを言った。
どうもこの辺りの気候が味噌を作るのにいいらしい。
ダイスケはサオダケを工場に運び込んだ。味噌というよりキムチの匂いがした。
工場の奥は雑菌が入るといけないので仕切りがしてあり、中は見ることができないが騒々しくしている。
ダイスケはマサルから代金と軽いサオダケを受け取ると、帰路についた。

「たぇけやぁあぁぁ さおだけぇぇ」

ダイスケはサオダケ屋は儲かると思った。


2ヵ月後、X県の山中から一発の飛翔体が半島に飛んでいった。
鳩はあいかわらず街路樹の根元の何かをついばんでいた、君が想像するより力強く。

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